日本共産党の消滅

金曜日、学校帰りに池袋のジュンク堂に寄って新書を二冊購入したのでした。

佐々木俊尚『グーグル』
筆坂秀世日本共産党

梅田望夫の『ウェブ進化論』という本がベストセラーになっていますが、こちらがたぶんに「想い」のこもった挑発的な「未来の書」だとするなら、『グーグル』はよりジャーナリスティックな筆致による(佐々木氏は元は毎日新聞の記者)等身大の地図、といったところでしょうか。本を買ってきた金曜の夜、その日のうちに読もうと思っていたわけじゃなかったんですが『グーグル』をちょっと開いたらはまってしまい、そのまま最後まで読んでしまいました。自営業者や町の工場がグーグルという新しい媒体に乗って劇的に変貌したことのルポルタージュなど、とても面白い読み物でした。で、そのあと小腹が空いて階段を下りてついでにテレビをつけてみたらタイムリーなことに、『朝まで生テレビ』で今後テレビはどうなるのかってなことを議論するなかでグーグルの話もされていました。とりあえず、『ウェブ進化論』と『グーグル』を読んでれば「朝生」には出れるな、と思いました。

で、さっきもう一冊の『日本共産党』を読み終わりました。本を買ったときにはまったく意識してなかったのですが、「未来の見取り図」を示すグーグル本と、「過去の総括」をする共産党本のセットだったんですね。いまさっき読み終わった『日本共産党』を強力に貫いている「終わってるな共産党感」が、『グーグル』を貫いている「これから始まるぞ感」と鮮やかなコントラストを形づくっています。

日本共産党』の著者、筆坂秀世氏は、1948年生まれで18歳で日本共産党に入党し、国会議員秘書をへて国会議員にもなり、党の「ナンバー4」にもなった大幹部でしたが、不祥事などもあり議員を辞職した後、昨年の7月に共産党を離党した人物で、この本は「元共産党幹部による内部事情暴露本」といった位置づけでしょうか。確か志位委員長が、「この本はデタラメだ」的な談話を出していたと思います。

とりあえず、僕の見るところ共産党の本質は一点につきます。すなわち、「設定された理想を完全無欠であるかのようにふるまわなければならない」という独特に膠着した空気と、「その完全無欠性がひとりの権力者に具体化されてしまう」という不可避の帰結です。この二つがセットになって、党の最高権力者は「決して間違えることがないかのように」接せられる、ということになります。これは、単に日本共産党という集団に限ったことではなくて、共産主義というようなユートピアを最終的なテコとして結集している集団にとって本質的な性格であり、これに似たような状態はいかなる集団においても起こるものです。大日本帝国における軍部だってそうです。

で、この本、ところどころ面白いんですが、なんというか、軽やかさというか、鮮烈さというか、キャッチーさにはかけています。いちいち共産党の綱領から引用したり、「第二十二回党大会で」とか参照したりするのも重たい。また共産党という集団の論理の非一貫性などをねちねちついていくところも、まあわかるんだけど読み物としては鈍重です。まず僕ならば、タイトルをこうします。

日本共産党は三十年後に消滅する」

で、日本共産党が消滅するこの三十年後を一つの焦点とする形で様々な記述を組織立てていく。まあ実際消滅するかどうかはわかりませんが、日本共産党という組織が極度に疲弊していることは間違いないですし、なにより、構成層の高齢化という要素は極めて大きいように思えます。この辺、さらっとした触れられていませんが、ところどころに触れられている記述を総括すると、日本共産というという組織の中核をなしているのは団塊の世代から上の層の人たちのようです。これは単に地位上の問題ではなく、数においてそうであるように見受けられます。この辺どうなんでしょう。こことても重要だと思うんですが。

とにかく、それが正しいと仮定すると、三十年後には団塊の世代あたりの人は次々に物故していくので、新しい成員を大幅に取り込んでいかなければ当然ながら組織は立ちいかなくなります。こういったあたりを軸にすればもっと面白くなると思うんですよね。まず、組織の構成層からいって、三十年後には「日本共産党は消滅する!!」という風にぶち上げて、経済的な部分なども含めてマイナスな要素を片っ端からに挙げていく。で、次に、もし日本共産党が残っていけるとすれば、若い人たちを広く取り込んでいくことができた場合だけだ、という形で、ではいまの日本共産党にはそれが可能なのか、という形でさまざまな検証をするめていく。こういう形態でも、『日本共産党』に書かれていた内容のだいたいの部分はつめ込めるような気がします。

とりあえず、日本共産党が消滅する日を目にする、という将来の楽しみが一つできました。個人的な妄想としては、それに際して皇室が哀悼の意を表する、というのが欲しいです。