進化論関連の本
もう以前のことですが、英王立協会で「ニュートンとアインシュタインはどっちの方が偉大か?」というような人気投票がされたことがありました。
http://www.yamaguchi.net/archives/002358.html
上の記事も述べているように、軍配はニュートンに挙がりました。たしかに、木から落下するリンゴと惑星の動きが同じ法則に従っている、という直感の壮大さは偉大としか言いようがありません。
ただ僕は、ニュートンとアインシュタインよりもダーウィンの方が偉大じゃないか、と思っていたのでした。すると先日、ダニエル・デネットの『ダーウィンの危険な思想』という本を読んでいたら、デネットがまさにそれと同じことを書いていたので嬉しくなりました。
集中的に考えてみようと思っていることがあるにもかかわらずついつい関係のない本ばかりを読んでしまうこの頃なのですが、そのなかでも進化論関係の本がいちばん多い。それでこのところ、進化論ってすごいなあとつぶやいてばかりいるので、進化論関係の本を思いつくままにちょっと紹介することにしました。
● ダニエル・デネット『ダーウィンの危険な思想』
これは、上下二段組みで700頁とかある大著なのですが、巧みなエピソードと平易な語り口でダーウィンの進化論の射程を解説しています。単なる解説ではなく、たとえばニュートンやアインシュタインの理論が世界の見え方そのものを変えてしまうものであったのと同様に、進化論がいかにあらゆるものの見方を転倒させてしまうのかを余すところなく描き出していきます。
● リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』
デネットは、進化論は巧みな語り手に恵まれていると述べながらこのドーキンスの名前を挙げるのですが、まさにその通りです。ユーモラスかつ平易な語り口で、ドーキンスは進化の基本的な単位が遺伝子であることを説得的に論じていきます。また、新版では、文化的遺伝子とも呼ばれるミームや延長された表現型という概念について書かれた文章も載せられており、これらも必読です。『延長された表現型』という書物もありますが、『利己的な遺伝子』の新版に収められている文章の方が要約的で便利かもしれません。
● ニコラス・ハンフリー『内なる目』
このハンフリーもまた、ドーキンスに負けないくらいの語り部です。この書物では、進化心理学という観点から人間の「内面」というものの出現のメカニズムとその機能が説明されていきます。その内容に関しては、個人的には疑問点もあるのですが、やはりその語り口が素晴らしい。小説や絵画、さらには自身の不倫の経験までもを引き合いに出して、「顔の見える」理論が展開されています。
● ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
これはブックオフで上下巻各105円で買った本ですが、素晴らしいの一言。人類が誕生した400万年前から語りおこして、欧米の列強が世界を支配するにいたるその道筋を進化論的な観点から記述していきます。その壮大な試みと、その試みを具体化していく歴史的、事実的細部へのまなざしの組み合わせが、学者とはかくあるべきものなのだろうなあと思わせてくれます。
● フランソワ・ジャコブ『生命の論理』
これは正確には進化論についての本というよりは、科学認識論的な観点から進化論の出現の意味を位置づけているものです。ノーベル生理学賞を受賞しているジャコブ氏ですが、その科学者が同時に人文的な素養をもって科学の成立を支えている認識基盤を根本から問うこのような本を書ける、というのがなんとも驚異です。なお、この本のなかでは進化論の発見者はつねに「ダーウィンとウォーレス」と表記されます。
● 新妻昭夫『種の起原をもとめて』
進化論といえばダーウィンですが、実際には、ダーウィンが進化論を「発見」したとされる1858年に、アルフレッド・ラッセル・ウォーレスもまた同様の結論に到達していました。この本は、そのウォーレスが進化論に到達するまでも道筋を丹念に追っているものです。標本採集業者としてマレー地方を探検したウォーレスの足跡を実際に辿ることで、たんなる歴史的検証だけではなく、著者とウォーレスとのなにか「親密な関係」とでもいうべきものも文章の端々に匂いのように残されていて読んでいて心地よいですが、さらに、ガラス税の値下げにともなう標本ケースの機能やアマチュア向けの博物雑誌の役割など、いわゆるメディア論的な観点も持ち込まれていて、そこもなかなか面白い。
● ルース・ギャレット・ミリカン『意味と目的の世界』
これは、稲葉振一郎氏のブログ(http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20070124)で紹介されいたのを覚えていて、昨日ジュンク堂で何気なく手に取ったら面白そうなのでついつい買ってしまったもので、まだ読んでいる途中なのですが、かなり素晴らしい。まだ簡単に要約できるほどちゃんと理解していませんが、とりあえずミリカンさんは、進化論の観点から、たんに「種」だけではなく言語や信念や社会的身ぶりまでをも統一的に理解しようという壮大な企図をもっている、ということは言えます。そこでは「目的」という言葉が特殊な使われ方をしており、それぞれの目的のもとに組織されている限定的な反復がさまざまな層においてお互いに食い違いながらも組み合わさっていく様が描き出されていっているように思われます。ちゃんと読んだら感想を書くかもしれません。
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