シリーズ第一回「歩き煙草」

たまにはまじめなことを考えてみるシリーズ

切込隊長氏のブログで以前、小谷野敦嫌煙ファシズムとワイネフ氏とミクシーとうんぬんかんぬんという話を読んだのでした。
http://column.chbox.jp/home/kiri/archives/blog/main/2006/10/11_062412.html
そういうことがきっかけとなって歩き煙草というものについてちょっと考えてみたので、たまにはまじめなことを考えてみるシリーズ第一回。


まず、僕は煙草を吸いませんし吸ったこともありませんしたぶん吸うこともありません。で、煙草の匂いも正直言って好きじゃありません。で、ぼくは何事もいちばん抽象的な次元から出発して考えるので、その僕にとって煙草とはまず何かといえば、それは一種の語りえぬものです。というのも煙草を吸うというのは一種、象徴的な死を吸い込むことだからです。死については原理的に語りえないように、煙草についても原理的には語りえません。そしてまた煙草が醸し出すエロティシズムというのも、当然ながらその死との近接性に由来する、と僕は考えています。吸わないけど。

また一般論として、僕はいわゆるPTA的な良識が嫌いです。そしてそのことから、PTA的良識にもとづいた嫌煙運動も嫌いです。その良識というのは、死さらには性といった語りえぬものを生理的に遠ざけるだけのただの潔癖病あるいはヒステリーだからです。また、野放図なあるいは度外れな贈与の形態が社会から排除されることと、煙草が潔癖に排斥されることは構造的には同じだと僕は考えています。吸わないけど。

そういった抽象的な煙草観を前提とした上で、じゃあ歩き煙草をどう思っているのかというよ、あれは止めて欲しいです。それはからだに悪いとか匂いがいやとかぶつかったら危ないとかいう理由ではありません。それは、電車のなかで携帯電話でぎゃーぎゃー喋られるのが嫌であるのとまったく等価です。

電車のなかでの携帯使用に関しては、もちろん心臓にペースメーカをつけているひとへの配慮は必要なのでしょうが、個人的な感触としては、口元に手を当ててひそひそと喋りながら、「いま電車のなかだから」という風情をめいいっぱい醸し出しつつできるだけはやく通話を終わらせようという配慮を前面に打ち出しながらの通話であれば、まったく気になりません。そういった配慮をまったくせずに堂々と喋りだす人間がいると、おもむろにカバンからデスノートを取りだします。

煙草の匂いは嫌いですが、たとえば雀荘とかで煙草がもうもうになっていても問題なく我慢できます。ですが、駅のホームの禁煙スペースで吸われると、やはりおもむろにカバンからデスノートを取りだします。

煙草の副流煙が及ぼす害についてはうんぬんありますが、それについては僕はぜんぜん情報をもっていないのでなんとも言いかねます。地位としては、心臓ペースメーカと同じです。純粋に物理的に迷惑がかかるのであれば最大限配慮するべきですが、煙草に関していえば、物理的悪影響とそこに付された象徴的意味合いとがほとんど不可分に絡み合っている気がします。

で、一般的には煙草に対する否定的な見方というのは、PTA的潔癖か配慮の欠如に対する憤りかのどちらかにもとづくものであり、その憤りが副流煙による物理的悪影響に対する「客観的非難」という形に迂回して現われるのだと思っています。

今度は翻って喫煙者側の観点に立つと、副流煙による物理的悪影響を根拠とした「客観的非難」に対して「ムカつく」のは、喫煙に向けられる非難の本当の動機が「客観的理由」に由来するのではないにも関わらず、表向きは「客観的理由」を持ち出してくるというその精神の二重性というか猥褻さが「ムカつく」ということなのだと思います。これを僕は正当な「ムカつき」と呼ぶことにします。それに対して不当な「ムカつき」もあります。それは電車でひとりスペースをとって座っていておじさんに「もうちょっとつめられないかね?」と注意されて「っだよ、ウッセーよジジイ」と逆切れするバカ若者のムカつきです。こういうのは教育するしかありません。あと親が悪い。

ということでいくつかの教訓です。
1、PTA的潔癖にもとずく嫌煙家たちには、断固として戦っていかなくてはなりません。僕は吸いませんが。
2、配慮のない喫煙に対して憤りを覚える人間は、もってまわった「客観的根拠」など引き合いに出さず、ストレートに「煙草吸うなら周りに配慮しろ」と言わなければなりません。なぜだと言い返されても、根拠などありません。「そんなの常識だ」と断固言い張りましょう。「常識ってなんだよ」と問い返してくる人間は、18歳以下なら多めに見ましょう。むしろその年齢で粛々と常識に従っているようだとそっちの方が問題です。20歳前後はグレーゾーン。状況によります。それ以上の年齢の場合は戸塚ヨットスクールに強制送還しましょう。
3、喫煙者は、配慮をもって喫煙しましょう。
4、「常識ってなんだよ」と問うこともなくたんに注意されたことに「ムカつく」ような逆切れバカ若者は、これまた戸塚ヨットスクールに強制送還しましょう。
5、なお、喘息の方やその筋の過敏症の方には特別な配慮をしましょう。

以上、たまにはまじめに考えてみるシリーズ第一回、「歩き煙草」編でした。