ネグリ来日中止の不思議

すでに方々で話題になっていますが、アントニオ・ネグリの来日が、とても不可解な経緯によって中止に追い込まれてしまったようです。僕はネグリ自身の思想や議論には基本的にあまり興味はないのですが、それとは無関係に、今回の出来事にはショックを受けました。

来日中止に至るまでの経緯については、急遽「来日中止の経緯説明会」に変わった歓迎レセプションについての西山雄二氏のレポート*1があるのでそちらをご覧になってください。

西山氏のレポートのなかで引き合いに出されている、当日の会場からの発言は、今回の事態が提起している一つの問題に焦点をあてています。

今回のことで、入国管理局がいかに恣意的に外国人に対応しているかがよく分かったと思います。成田空港に到着した後、いろいろな理由で入国を拒否され、入国管理局の狭い部屋に何十人もの外国人がつねに閉じ込めれています。そして、深刻なことに、私たちはこうした事実をまったく知りません。入国管理局で何がおこなわれているのか、ネグリの出来事から考えてみる必要があります。

これはまさにその通りだと思います。ただ今回のネグリの件は、その入国管理の恣意性という点に、さらに政治的というか思想的というか、別の怪しげな側面も付加されている気がします。実際に法務省などでどのような議論があったのかはわかりませんが、ネグリが展開している過激な主張そのものが、なんらかの形で今回の事態に影響を及ぼしているのではないかと勘ぐりたくなります。

今回の件は、法律上は「出入国管理及び難民認定法」における、外国人の日本上陸を禁じる次の規定が問題になったらしいです。

日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮(こ)又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない*2

で、ネグリ氏は出国の二日前になっていきなり、かつて自身が受けた刑罰が政治犯罪によるものであったことを証明するように要求されたというわけです。僕はこんな規定があったのを知りませんでした。そして同時に、「あれ?」と思ったのでした。

このブログでも何回も言及しているベルナール・スティグレールというフランスの哲学者は、銀行強盗によって五年間、刑務所に投獄されていました。これはいうまでもなく政治犯罪ではありません。しかしこのスティグレールは、これまで何回も来日しており、そこでは何の問題も生じていません。上記の法律に基づけば、スティグレールは日本に入国できないはずです。だから僕はとても疑問に思ったのでした。

どうしてスティグレールはよくてネグリはだめなんでしょう?というか、スティグレールが純然たる(?)規定該当者であるのに対し、ネグリはほぼ冤罪といっていい政治犯であるという明らかに圧倒的にネグリに有利な条件の差があるにもかかわらず、なぜネグリだけダメなんでしょうか?こうなると、やはりネグリ自身の過激な主張内容に理由があるのではないかとどうしても勘ぐりたくなります*3。そしてもしそうだとしたら、これはさすがに問題でしょう。

追記
スティグレールの件に触れている人もすでにいました。
http://angel.ap.teacup.com/unspiritualized/162.html