ホテル・ルワンダ』をめぐっての「町山/関東大震災」問題について書かれたhokusyuさんの以下のエントリー
http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20060305
についてコメントを書き、それに対するレスポンスをいただいたのですが、それについてさらに書こうとするとどうしても長くなってしまうということがわかったので、こちらに書きます。ブログにちゃんと書き込むのは始めてなので、不格好になるかもしれませんがご寛恕のほどを。

上のエントリーは、「ルワンダでの虐殺と関東大震災時の朝鮮人虐殺は別の問題だ」とするfinalvent氏への批判です。
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/?of=2
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/?of=1
参照。

「「関東大震災時の朝鮮人虐殺事件」が「異者の排除」の事例とされ、その際には「朝鮮人」が異者の地位を割り当てられる。そしてその「異者の排除」の事例を正面からみつめないことは同じ心性の再生産である。」という基本的な出発点があるように思えます。

 finalvent氏の議論では、「異者の排除」という普遍的な図式が往々にして惨事を引き起こす、ということ自体は全く否定しておらず、ちょっと踏み込んで解釈すれば、その「異者の排除」が歴史の中でそれぞれ固有な現れ方をする、ということを言っているだけだと思います。そして今回の場合、例の「虐殺事件」はそのような「異者の排除」のひとつの固有な現れだったのか、と問いかけ、おそらくちがうだろうと結論されているようです。

 その結論そのものがどうであるかを判断する能力は僕にはありませんが、問題となっているのはその結論の手前のところだと思います。つまり、「朝鮮人虐殺事件」が「異者の排除」を指し示すシンボルになっているのではないか、そうであるとすれば歴史上の「固有な現れ」を見ることができないのではないか、という点だと思います。

 実をいうと僕は町山さんのファンですし、また『ホテル・ルワンダ』で描かれていることをどこか遠くで起こった出来事としてではなく、まさに自分の問題として、いまこことつながっている問題として捉えてほしいというパンフレットでの町山さんの意図には全面的に賛同します。ただ、その意図に本当に忠実であるためには、むしろfinalvent氏の慎重さというか留保が必要になるのでは、と考えている次第です。

 純粋な「異者の排除」は存在せず、そのそれぞれ固有な具体化のみがあるのだと思いますが、となるとその具体化のメカニズムというか、そこに至るまでのあやというか、それを解きほぐして教訓としていくことが、歴史から学ぶということなのでしょう。これが重要であるということは、hokusyuさんも同意するのではないでしょうか。そしてこの点がまさに、finalvent氏が述べていることだと僕は思っています。で、そのような態度の末にfinalvent氏が例の「虐殺問題」に関して現在において辿り着いている結論が、この事件には「他者の排除」という図式はあてはまらない、というものだったというわけです。この結論に関しては、finalvent氏も逡巡をみせているように開かれているわけで、具体的検証次第では変わってくることもあると思います。その一方でfinalvent氏が断固ゆずらないだろうと思われるのが、つまり個々の固有な現れに定位する、という姿勢です。つまり、「虐殺問題」をたんに「異者の排除」を指し示すシンボルとしてのみ用い、そこで実際にはどのようなことが起こっていたのかという「固有な現れ」への定位を忘却するという態度に対しては批判するのだと思います。正直に言うと、ぼくは町山さんの例の最後の一文は妥当だろうと考えていたのですが、finalvent氏のエントリーを読んで、そのあといろいろと考えて自分の考えを改めました。僕自身、大震災での「朝鮮人虐殺事件」をなんにも考えずに「異者の排除」のシンボルとしてのみ理解していて、具体的にそこで何が起こったのかを虚心に捉えていこうという発想はなく、そのことを反省したのでした。僕はまだ勉強不足ですが、色々調べた結果としてやはりあの「虐殺事件」にはあるやり方で「異者の排除」という構図が現れているという結論に達するかもしれませんが、そうだとしてもfinalvent氏の基本姿勢にたいしては同様に賛同します。

 finalvent氏の文章が、例によって最短距離を駆け抜ける文体なのでしょうがないっちゃしょうがないのですが、ルワンダの例と関東大震災の例は違うと言う場合に、後者においては「異者の排除」の構図は当たらないということと同時に、出来事の固有な現れを見る必要があるのであってそれをひとつのシンボルにしてはいけない、ということも強調してあればもっとわかりやすかったかもしれない、とも思いました。